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はじめに


前例のない高齢化社会到来により
医療、介護、福祉領域が直面する危機は計り知れません。

整形脊椎診療は、この危機を好機に活かせる科であると思っています。

秋は学会シーズンで、多くの学会に参加して参りました。

高齢者治療に対するセッションは
シンポジウムで扱われたり大きな会場で行われたり
その関心の大きさが伺われます。

高齢者の定義は、種々の研究でそれぞれですが、
・リスクは従来と同様
・早期に介入することで、改善率は同様
などと超高齢者手術に対して肯定的な意見が多かったです。

ただし術前の全身状態の評価が充分になされる必要があることは論を待ちません。

ひとつの懸念として、高齢者は抗血小板剤、抗凝固剤の内服中の患者さんが非常に多いのです。
それについて、どのように周術期管理なされるべきか、という論点が弱いと感じました。

周術期の抗血小板剤・抗凝固剤の扱いに対しての指針は?


脊椎手術には頸椎手術もあれば腰椎手術もありますし、
除圧もあれば、固定もあります。
MIStもあれば従来のオープン手術もあります。

体位は仰臥位よりも腹臥位が多いです。
前方アプローチであれば側臥位にもなります。

術者間の技術の差もあります。

よって手術の侵襲は単純には割り切れないのです。

だからといって、
・アスピリンはオフにはしません、
いえ前日のみオフにします
・チクロピジンは3日だけオフにします、
いえ7日オフとします
いえいえ10日オフとします
・ヘパリン化はしたりしなかったりです
など個々でバラバラでよいのでしょうか?

中止期間の目安とインフォームド・コンセント


・アスピリン:手術の7日前
・チクロピジン・クロピドグレル:10~14日前
・シロスタゾール:3日前
・エパデール、オパルモン:前日
といったところがよく散見されると思います。

術後血腫は適切に除去すれば後遺症は、ほぼきたしません。
しかし脳血管障害や心臓血管障害、肺塞栓などは後遺症、最悪致命的となります。

わたしはバイアスピリンはオフとしません。

さらに通常、脳外科や循環器内科にコンサルトします。
抗血小板剤や抗凝固剤休薬にリスクがある、とのことであれば
ヘパリン化するようにしています。

創部硬膜外血腫は適切に除去すれば後遺症は、ほぼきたしません。
しかし脳血管障害や心臓血管障害、肺塞栓などは後遺症、最悪致命的となるからです。

もちろん硬膜外血腫になってほしくはないですが・・・

休薬期間に血管障害を発症するのか?


このような話題でもっとも興味あることは
周術期休薬期間の間に血管障害を発症するリスクはどの程度なのか?
ということだと思います。

リスクは少ない、といってもいったん発症してしまえば
麻痺などの後遺症を起こしてしまいます。
脊椎手術を受けたのに、麻痺になって転院、では本末転倒です。

日本消化器内視鏡学会リスクマネージメント委員会より
・脳梗塞または一過性脳虚血発作の既往があり、アスピリンを服用していた患者が、
アスピリンを4週間位中断した場合に、
脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作をきたすオッズ比は3.29(95%信頼区間1.07〜9.80、p<0.05)
・とくに虚血性心疾患も合併している患者で、アスピリン中断後の脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作の再発が多く見られる
・抗血小板剤中断で起こる虚血性血管イベントは、中断の4週間以内に起こるとされる


ほか、手元にはありませんが、何かの文献で休薬期間に血管障害を引き起こす率が
4%程度あることを読んだことがあります。
で、これは決して低い数値ではないぞ、と前述のような周術期管理を行っています。

重要なことは、十分なインフォームド・コンセント


手術において、
・硬膜外血腫などの術後出血性のイベント
・休薬中の血管障害のイベント
のどちらも患者さんにとって、不利益であります。

抗血小板薬休薬中に血管イベントが起こったときの責任の所在はどこにあるのでしょう?
患者さんでしょうか?
いえこれは当然、手術を施行した医師にあると思います。

よってその責任を回避するためには、
手術前に、十分な説明を行ない、同意をとる必要があります。
リスクとベネフィットの具体的な説明を行ない、
インフォームド・コンセントを得ることがもっとも重要なことでしょう。

本日のまとめ


高齢者の手術加療に対する肯定的な意見にアグリーですが、
だからといって安全というわけではまったくありません。

とくに血管イベントに対するリスクマネージメントは
考え過ぎといわれるくらい慎重に行うべきだと思います。

学会内でもケンケンガクガクで、
この状況では学会は守ってくれない。
患者さん(自分)の身は自分で守らなければならない

と感じました。