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はじめに


わたしたち脊椎脊髄診療科にとって非常に密接な医療ニュースが2つ流れました。
気道合併症関連のニュースです。

A病院は、頸椎の手術を受けた60代の男性患者の術後の管理体制に不備があり、
約1年8カ月後に合併症で死亡する医療事故が起きたと発表した。
病院は過失を認め、親族に賠償金4千万円を支払うことで示談した。

病院によると、男性は頸椎症性脊髄症の診断で頸椎の複数の骨を除去する手術を受けた。
男性は一般病棟の個室に入った。
手術翌日午前7時ごろ、看護師が脈拍や血圧に問題ないことを確認、会話もできたという。
約40分後に容体が急変。
男性はナースコールを鳴らしたが、看護師が急行できず、約8分後に駆け付けると男性に意識はなく、低酸素脳症に陥った。
約1年8カ月後肺炎のため死亡した。


B病院は、甲状腺がんの手術を受けた20歳代の男性患者に対し、
院内マニュアルに基づく術後管理を行わなかったため、
手術翌日に死亡させる医療ミスがあったと発表した。

マニュアルは手術ミスを教訓に07年に作られていたが、活用されていなかった。

甲状腺乳頭がんを切除する手術を受けた翌日の午前6時頃、首がはれているのがわかったが、乳腺・内分泌外科の当直医は炎症と判断して経過観察とした。
患者はその後、呼吸困難を訴え、内出血による窒息状態で死亡した。

同病院の調査委員会は手術自体に問題はなかったとする一方、
マニュアルでは、はれが見つかった場合は縫合した傷口を開き、血腫の有無などを確認するよう求めていたとして、当直医の対応を不適切と認定した。
当直医は手術には加わっていなかったという。


致命的な気道関連の合併症


頚部の手術の気道関連の合併症はこのように、致命的であります。

わたしたちの頸椎前方手術のほかにも、
・甲状腺・咽頭・喉頭の手術
・頸動脈の手術
・食道の手術
などにも気道関連の合併症発症のリスクがあるのではないでしょうか。

咽頭後壁の腫脹に伴う気道閉塞が起こる


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これは、C5/6高位の前方除圧固定術施行の術前と術翌日の頚椎レントゲン側面像です。
術後とくに頚部の症状の訴えなく経過しています。

咽頭後壁の軟部組織の厚みの違いがおわかりになるでしょうか?

かなり腫脹しており、それに伴い気道が狭くなっています。

気道閉塞は緊急事態


気道は、ほんのすこしでも隙間があればなんとか呼吸できますが、
いったん閉塞してしまうと緊急事態です。

気道閉塞はすなわち、窒息なので、あっという間に生命の危機に及んでしまいます。

以前、ドレーン管理のNsむけ講義でもまとめましたが、
「知らないと怖いです!頚椎前方固定術のドレーン管理。」

わたしが頸椎前方手術の術後管理で一番重要と思っていることは
呼吸パターンの悪化の徴候を見逃さないこと
です。

患者さんの病状の変化について、わたしなりの解釈としては

①患者さんが安静に呼吸している
→よい

②患者さんが「喉の腫れ感、圧迫感、呼吸困難感」を気にする

心配のはじまり。
入念に所見をとる。
呼吸回数は増えていないか
頚部聴診で変な呼吸音(喘鳴、狭窄音)が聞こえないか

③患者さんが「呼吸困難感がある」と感じる

・努力用の呼吸をしている
・頚部の静脈が怒張している
・肋間筋を精一杯動かしている

④あえぎ、もがき、不穏

急速にチアノーゼ、呼吸停止に至る

つまり、②の時点で心配していなければなりません。
③は緊急事態です。
④は生命の危機です。

「呼吸が止まりそうです!」
「SpO2が低下してます!」
「あ、レートが伸びてきました!」

この連絡の間に主治医が来棟して、呼吸再開の処置を行うのは不可能に近いです。

周術期管理の心構えが大切


気道閉塞の発症の確率は非常に低いですが、発症したときは重篤でmeserableです。

だからといって頚椎前方固定術は脊椎手術において非常に大切な手術で、
後方からの手術で代用できるものではありません。

・ドレーンの量が少なくても、
・ガーゼが汚染されてなくても、
・皮下血腫がなくても、
咽頭後壁周囲の軟部組織の腫脹は外見上、把握することができないことが多いです。

ここはもしかしたら甲状腺や頸動脈の手術とは異なる点かもしれません。

周術期管理はバイタルをチェックのみではなく
気道関連の観察を十分行い、緊急事態発生を防ぐ心構えが大切だと思います。

本日のまとめ


わたしは頚椎前方手術後のとくに、24〜48時間は、とっても怖いです。
今回の記事で、あらためて周術期管理の体制を整える重要性を感じました。

脊椎疾患についての看護師さんむけの教科書。
脊椎専門ナースを目指す方に、待望の一冊です。