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はじめに


骨粗鬆症性椎体骨折にBKPを行うことで、疼痛を緩和することができます。
非常に低侵襲で、速効性があり、有用です。

患者さんは、治療直後から改善したことを実感されます。

麻酔科の先生にも、
“術後回診で患者さんが一番喜んでくれる手技ですね”
と言ってもらいました。

しかし、低侵襲イコール安全、というわけではありません。

というのは、PMMAはセメントなので、注入時の挙動をコントロールすることができないのです。

よって、セメント漏出の危険性があるわけです。

PMMAの漏出


先日術後CTをみて、静脈に漏出している像があり、ぎょっとしました。

IMG_4063


骨セメントはどんな術者であっても、ぜったい、慎重に注入しています。

なぜなら、
・血管に漏れると肺塞栓がおこるおそれがある→致命的
・脊柱管に漏れると神経症状を惹起するおそれがある→重篤な後遺症のおそれ
があるからです。

ただし、これらの問題は比較的教科書的なレベルです。

今回の漏出を機に、合併症について調べなおしていたら、
と、とんでもないことも起こっていました。

心臓内に異物として留まり、悪さをしているようなケースレポートが結構散見されるのです。

Farahvar. A, et al: J Neurosurg Spine 11:487–491, 2009
Perforation of the right cardiac ventricular wall by polymethylmethacrylate after lumbar kyphoplasty
001

・BKP施行後8時間後に胸痛と嘔吐、その後ショック
・軽胸壁エコーで心臓壁周囲のeffusion.
・心タンポナーデ呈しており、大動脈解離疑った
経食道エコーが決め手
・エコー上、右室を貫く索条の異物?
・手術で摘出するとPMMAであった。

BKP後にショックなど考えられない事です。
こんな大きなセメントが漏出していたなんて。

Kim HT, et al: Korean J Intern Med 2013;28:247-250
Intracardiac foreign body caused by cement leakage as a late complication of percutaneous vertebroplasty.
001
002


・心不全徴候が出現し、経胸壁エコーで異物の存在を指摘。
・胸部CTで右房から右室にかけて約6cmにおよぶ石灰化した索状物?を指摘。
・索条のPMMAであった。
実に5年前にPVPをL3,L4レベルで受けている既往がある。

5年前のPVPですよ??

Hatzantonis C, et al: Eur Spine J. Pubished online 17 August 2016.
Intracardiac bone cement embolism as a complication of vertebropasty: management strategy
002

・骨粗鬆症性椎体骨折T12、L1、L2に対して
PMMA椎体形成(T8-L5)→後方insutrumentation(T9-10, L3-4)→前方(L1 corpectomy)の3期的手術
・4週間後に左胸部痛
・CTで右房に高吸収の物体
・無症候性なので保存的に経過みることができているそう。

4週間なども微妙な時期ですよね。
保存的に経過みることも非常に勇気が必要です。

さらにこの論文内には、これまでの心臓異物の報告のペーパーがテーブルにまとめられております。
興味があれば一読をオススメします。

さらに、これらの症例報告をまとめて、PMMAが心臓異物として留まってしまった場合の対処法を簡単なフローチャートにまとめています。
ご参考までに、載せておきますが、保存的に経過みるのは勇気が要りますよね。。。

004


本日のまとめ


調べてみるとPMMAによる心臓内異物は、意外に散見されるので本当に驚きです。
急性期発症や5年経過してからの発症もあり、一様ではないので油断できません。

これは本当に怖いですね。

BKPのPMMAによる合併症を防ぐためには、
・2面透視を用いてリアルタイムで正面、側面の情報を得ながら注入すること
・決して圧入しないこと
・適切な粘稠度になってから注入すること。
に尽きるのではないでしょうか。

やはり手技というものはあらゆる局面で合併症が潜んでいます。
慎重に知識と技術を磨いていかなければなりませんね。

★★★★★
星地先生の経験と知識が余すところなく収められております。教科書らしくない教科書で、非常にわかりやすい!そして、なにより面白いです。絶対に一読すべきテキストです。