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はじめに


股関節班から、
Bow hunter 症候群と診断され、頸部を回旋しないように、と言われて10数年、、、という症例がいます」
と相談されました。

すでに症状の再現性はなく、抗血小板剤内服は高血圧、狭心症の既往によるものだとか。

再現性がないなら大丈夫ですよ、とはなかなか断言できなかったので、せめて低侵襲検査として、頸椎Xpでの動態評価、MRI/MRA、頸動脈エコーで正中、回旋位での血流ドップラー評価を可能な限りで行ってもらい、所見がはっきりしなかったのでそれ以上の追加検査は行わず、通常以上(?)に愛護的に股関節手術してもらいました。

10数年前にBow hunter's strokeと診断するって臨床力すごいなあ、と感じました。
というのは、わたしは未だに診断したことがないからです。
見逃しているんだと思います。。。

ということでBow hunter's strokeについてまとめておきます。

Bow hunter's stokeとは


07

読んで字のごとく、弓矢を射る姿勢のように頸部を回旋した際に生じる椎骨脳底動脈循環不全のことです。
アーチェリーの練習中に脳幹部梗塞を発症した、という症例報告によります。

日本語では、Bow hunter 症候群、と訳されております。

頭部回旋時に 椎骨動脈が狭窄あるいは閉塞状態となり、椎骨脳底動脈系の虚血症状が生じる、という病態です。

通常は、環椎・軸椎レベルでの話ですが、まれに、より下位のレベルで発症する例も報告されています。

原因


外傷や関節リウマチなどによる環椎軸椎亜脱臼、横突孔部での骨棘形成、椎間板ヘルニア、軟部組織の肥厚による椎骨動脈の締め付け、腫瘍、感染などが報告されています。

症状


症状は、頸部の回旋に伴うめまい、ふらつき、意識消失発作などです。

通常診療科は脳神経外科ですけれども、
「めまい症」、「意識消失発作」などの診断名でのコンサルトであれば、Bow hunter's strokeには辿り着けないと思われます。
稀な病態なので、めまい、ふらつき、意識消失のスクリーニングにこぼれてしまう可能性が高いと思われます。
頸部の回旋に伴う症状で、Bow hunter症候群が疑われます、などとしなければ難しいのではないでしょうか。

虚血症状の発症要因は血行動態的な血流低下であり、通常可逆性であることが一般的ですが、血管の持続的・機械的刺激による内膜損傷から血栓が形成され、その飛散による脳塞栓症などの不可逆性変化も生じうるので慎重な対応が重要です。

画像診断


これが一番難しいところだと思います。
事実、わたしに至ってはこれまで診断症例はありません。

椎骨動脈は二本存在するため、回旋で片一方が狭窄あるいは閉塞しても、それだけで虚血症状が起こるのか?という疑問もあります。頸椎の椎弓根スクリューを打っている先生方は少し大胆な考えをお持ちの方もおられるかもしれません。また、頸部回旋時にはすでに生理的に対側の椎骨動脈は環軸椎部で狭窄を生じています。

よって通常は優位側の椎骨動脈に狭窄あるいは閉塞が生じる、とされます。

まず画像診断の前提条件として、臨床症状として頭部回旋に伴って症状が誘発されることがあります。

画像診断としては、以下を組み合わせます。
(1)頸動脈エコー
可能であれば、正中位、回旋位での椎骨動脈や脳底動脈の血行動態の変化を頸動脈エコーのカラードップラーで評価することが望ましいのですが、患者さんの体型や頚部の状態によるところが問題です。

(2)SPECT、3D-CTA
ただし、一定時間頸部を症状が誘発される回旋位にしておかないといけないですよね。
患者の負担が大きいですし、万が一不可逆な梗塞にまで発展したら本末転倒です。

(3)脳血管撮影
やはり動態脳血管撮影で頸部回旋時に椎骨動脈が狭窄あるいは閉塞することを証明する、ということになろうかと思います。
ただし一側だけで確定していいのかどうか議論の余地があると思います。


・・・繰り返しですけれども、診断したことないんですよね、、、

治療


10数年、頸部回旋制限、というのは流石に違和感を覚えました。

保存加療として、カラー装着による頚部安静や抗血栓剤の投与、というものもあるのはあるんですが、実際いつまで?という基準が明確ではありません。

椎骨脳底動脈系は脳幹部の栄養血管なので、虚血は致命傷に発展しうるため、確実な治療が必要、という理解です。

外科的治療には
(1)環椎・軸椎の横突孔のunroofingによる椎骨動脈の除圧
(2)環椎軸椎後方固定
が一般的です。

(1)は、術後の再狭窄
(2)は、頭部回旋運動制限(6割程度)
が問題になります。

・再発例は虚血による一過性の症状もあるが椎骨脳底動脈領域の脳梗塞に至り、重篤になり得ること
・環椎軸椎後方固定を行った場合の頸部回旋運動制限は術前のインフォームドコンセントにより生活の不自由や不満が決して多くないこと
・固定例の再発は非常に稀であること
などの理由により最近では後方固定を支持する意見が強いようです。

本日のまとめ


Bow hunter's strokeについてまとめました。
わたし自身の臨床力では、まれな病態、と思ってしまいますが、もしかしてまれではないのかもしれません。
今回の件を通じて、診察時にめまい、ふらつきなどの症状を訴える患者さんがいたら、回旋位をとってみる、という手技(主義?)を加えて見ようと思った次第でした。

★★★★★
星地先生の経験と知識が余すところなく収められております。教科書らしくない教科書で、非常にわかりやすい!そして、なにより面白いです。絶対に一読すべきテキストです。






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