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とぜん201903-.001

はじめに


使い方がよくわからないPeing質問箱ですが、ご質問を頂きました。

パパイヤさん、このような場末のマニアックなブログに足を運んでくださり、誠にありがとうございます。

質問は以下の通りになります。

はじめまして。手術室看護師をしております。 先日、頚椎症性脊髄症の患者さんに対し、C2・C7のドーミング、C3〜C6椎弓形成が行われた際にC2で硬膜損傷が起こりました。 センターピースで椎弓形成を行った後にネオベールとボルヒールでパッチをし、終了となりましたが、術後のCTで気脳症になっていました。 そこで質問です。
①術中、損傷部にノイロシートなどを当てておけば髄液の流出を抑えることができたのでしょうか?
②同じく術中にヘッドダウンをすることで気脳症を抑えることはできたのでしょうか?
③術後に病棟看護師と共有すべき点はありますか?
ex) ヘッドアップはしない、ドレーンの圧管理など… よろしくお願いします。


そうですか、、、
決して、ないとは言えない、硬膜損傷ですね、、、

術後に頭のCTを撮像したということは、なにか症候性のものがあったのでしょうか?

術中硬膜損傷の対処方法は、とても重要なことなのですが、実はガイドラインのようなものはありません。
学会でもっと深く話し合ってもいいように思えますね。

振り返ってみると、同門の秘技!とか、あるいは手術見学・懇親会のさなかの耳学問、、、などで得てきたもののような、、、

ということで、エビデンスの乏しい内容にはなりますが、わたしなりに考察してみたいと思います。

硬膜損傷時は修復よりも目的の手術を完遂することが優先される・・・かな


①術中、損傷部にノイロシートなどを当てておけば髄液の流出を抑えることができたのでしょうか?

その損傷の程度にもよりますが、わたしならば、手術を完遂させることを優先するように思います。

髄液の流出が強いと術野の邪魔になるので、まずは損傷部に脂肪片のような軟部組織などをノイロシートやベンシーツなどであてがっておき、とりあえずなにかしらで栓をしておいて、髄液の漏出をなるべく最小限にとどめるように努めます。

ご質問の内容のノイロシートで髄液の流出を抑えられるかどうかは、あくまでも損傷の程度や場所によると思います。

手術が完遂した後で損傷部位を確認にいき、縫合できるものかどうかを判断するかな、、、と。

ただ、頸髄とか胸髄になってくると、すぐ下はもう脊髄なので、やすやすと針で縫合できないです。

かえって危ない場合は脂肪片や筋肉片、fasciaなどでパッチを充てて、フィブリングルーなどで補強でしょうね。

確実とは言えませんが、バルサルバをしてもらって流出がなければなんとかなるだろう、と。
流出してくる状態では閉創の判断はできないです。

気脳症は、術野を頂点にすることで防ぐ


②同じく術中にヘッドダウンをすることで気脳症を抑えることはできたのでしょうか?

そのとおりで、気脳症を最小限にするためには穴を最頂点にすることです。

頭蓋が最頂点になったら、髄液の漏出とともに気泡が硬膜嚢内に入って、そのまま頭蓋に入っていきますよね。

ペットボトルをひっくり返したことと同じことで、重力で髄液が漏出してきた場合、空気に置き換えられてしまいます。

ただ、ヘッドダウンで防げましたか?と尋ねられれば、それは必ずしもそうではないと思います。

実際、硬膜切開を伴う手術では、腹臥位や側臥位に気脳症が起こりやすいです。
起こる可能性があることを、あらかじめわかっていて硬膜を開け、気脳症にならないように努めているにも関わらず、です。
スクリーンショット 2019-08-15 7.34.44

In neurosurgical operations, pneumocephalus occurs more frequently in operations performed in sitting position than in operations performed in prone and park bench positions.

CASE REPORT
A Rare Complication of Lumbar Spinal Surgery: Pneumocephalus
Uğur Özdemir;Korean J Neurotrauma 2017;13(2):176-179

なので、体位で完全に防ぐ、というよりは体位で最小限にする努力、という意味合いになると思いますよ。

ただ、不意な操作で硬膜損傷が起こって髄液漏になった場合は、たいてい術者は瞬間パニクってます。
直介Nsさんのほうで、「頭すこし下げてみますか?」など言ってもらえたら、とても助かります。
術者は冷静さを取り戻すキッカケになると思いますよ。

硬膜損傷→次の合併症の可能性を共有しておく


③術後に病棟看護師と共有すべき点はありますか?

もちろんございます。

硬膜損傷は次なる合併症発生の可能性があるので、迅速な診断、早期治療介入のためには病棟看護師さんの力を得ないといけません。

通常、気脳症で症状が出ることは少ないのですが、髄液のオーバードレナージ(引きすぎ)はよくありません。

困ることは遠隔頭蓋内出血と呼ばれるものです。



小脳に出血を起こす報告が多いです。

気脳症とも共通することですが、髄液漏が原因なので、ドレーンの性状が血腫から髄液に変わっていないかどうかは常に気を配っていてほしいです。

そして、症状としては、
頭痛、嘔気、嘔吐、めまい、傾眠、不穏や意識の混濁のような意識障害、けいれん
などでしょうか。

症状が軽いと、「全身麻酔のあとだから、こんなものか、、、」と思ってしまいがち。
薬剤でまったく改善しないとか、症状がずっと持続しているとか、症状が悪化しているとか、など注意深い観察が必要です。

ただ、それ以上の頻度として心配なのは術後硬膜外血腫です。

とくにご質問者さまの手術は頚椎。
頸髄の硬膜外血腫は四肢麻痺に発展してしまいます。



四肢麻痺に達する前に、患者さんがサインを出しているはずです。



これら硬膜外血腫としての通常の心配ごとに加えて、術中硬膜損傷があったとすれば、、、

遠隔頭蓋内出血や気脳症が出現しないかどうか、
・ドレーンバック内が通常の血腫かどうか
・髄液になっていないか
・流出量が変化していないか
をよりしっかりみていく必要があります。

髄液漏を認めたら、ご指摘のとおり、ヘッドアップの指示、ドレーンのクランプの指示など、追加で指示をもらわなければならないです。

また、ほかに硬膜損傷の心配ごととしては、
・髄膜炎
・くも膜炎
・硬膜外膿瘍
・硬膜瘻孔形成
なども挙げられますが、これらは基本急性期ではありません。

本日のまとめ


パパイヤさん、ご質問いただき、誠にありがとうございました。

わたし自身、知識のアップデート、病棟の指示の見直しに大変勉強になったご質問でした。

もっとも大切なことは硬膜損傷を起こさない確実で安全な手技であることは論を俟たないですが、合併症に対する迅速な診断、早期治療介入も大変重要です。

そのために看護師含めスタッフの力に多くを頼っていることも事実なので、問題点はしっかり共有しあっていきたいです。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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看護師さん待望の一冊。
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