カテゴリ:
スポンサードリンク



はじめに


特発性脊髄硬膜外血腫は、数すくない脊椎救急疾患の一つです。
救急診療をしていればいつか確実に遭遇すると思います。

比較的まれな疾患であるため、その病気を知られず、救急疾患でメジャーな脳卒中と診断されることもあります。

症例提示


パソコンで作業をしている際に突然激烈な頚部痛を自覚し、
急激に右上下肢の麻痺を呈したために救急搬送されました。

まさに脳卒中様のエピソードです。
椎骨脳底動脈の解離に伴う症状が強く疑われるのではないでしょうか。

頭蓋内病変検索のため、CT、MRIを施行されましたが
とくに異常を指摘されませんでした。

この症例は頭蓋内検索が済んだあとに、すぐに頚椎を追加で検索され、診断がつきました。

血腫除去のための緊急手術の準備をしつつ
症状を観察すると数時間の経過で改善傾向がありました。
そのまま保存加療を選択し、完全回復を得ることができました。

MRIは経時的に撮像したMRIでも血腫は徐々に吸収され、完全になくなりました。

001

5日後
5日後

2ヶ月後
2ヶ月後


治療のうえでもっとも重要なこと


本症例のように、脊髄硬膜外血腫は早期診断、早期治療にて良好な予後が期待できる救急疾患です。

頚部痛の訴えがある場合は、脳梗塞治療を行う前に一度上級医に相談してみましょう。

硬膜外血腫の可能性があります。

硬膜外血腫の多くは原因不明ですが、
最近では脊椎硬膜外ブロックや抗凝固剤の使用頻度が増したため、
増加傾向にあるとも指摘されています。

今回のように保存加療のみで改善する例もありますが、
・麻痺の程度がつよい(MMT 3レベル以上)
・膀胱直腸障害を呈している
・経過で増悪傾向にある
ような症例は緊急で血腫除去が必要です。

神経症状の改善は
治療開始前の神経症状
と、
治療開始までの時間
に依存するので
早期診断が重要です。
脊椎外疾患としての鑑別は脳卒中、大動脈解離などですが、
脳卒中様の症状を呈していても
・頚部痛を伴う症例
・感覚障害が脊髄パターン
であれば頚髄硬膜外血腫の可能性を念頭にいれて治療にあたる必要があると思います。

本日(2018/5/18)のまとめ


特発性脊椎硬膜外血腫は、早期診断ができた場合にのみ、予後良好であるため、診断がとても重要です。

最近は脳梗塞治療のタイムウィンドウが延長されましたので、脳卒中様の症状でも、ひと呼吸置いて考えてみるといいでしょう。

逆に、われわれは、外来で頚部痛の訴えの患者さんが来院されたときは、
・急激な発症、何時何分ころ、とか、何かをしていた瞬間から、のようなエピソード
・NSAIDsが無効
・これまで経験したことがない
などの訴えがある場合は、頚椎疾患ではなく、椎骨動脈解離やくも膜下出血を念頭においておいたほうがよいでしょう。

★★★★★
星地先生の経験と知識が余すところなく収められております。教科書らしくない教科書で、非常にわかりやすい!そして、なにより面白いです。絶対に一読すべきテキストです。