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痙縮に対する治療法である、ITB療法についてまとめます。

ITB療法とは


ITB療法とは、Intrathecal baclofen therapyの略です。
バクロフェン髄腔内投与療法と訳されます。

脊髄損傷や脳血管障害による痙縮の症状に苦しむ患者さんに行う治療法です。

日本では2002年に臨床試験が開始され、2005年4月より保険収載となった治療法です。

・背側から腰部椎弓間を経由して、硬膜内にカテーテルを挿入する
・背側皮下から腹側皮下までカテーテルを通す
・バクロフェンを充填したポンプを腹部の皮下に埋め込み
・ポンプ側のカテーテルと硬膜内側のカテーテルとを連結

これで髄腔内にプログラムで設定した量のバクロフェンが持続注入されます。
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製品のさまざまな改良によりさらに安全に投与できるようになりました。

病態 痙縮とは


わたしたちは物心ついたときから当たり前のように、手足を思い通りに動かしています。
指令を受けた筋肉が、指令通りに動いている、ということになります。

ご存知の通り、腕や足を動かせという指令は、
脳で作成して、脊髄を通り、動かしたい筋肉に到達しています。

そして、脳からは抑制する命令も同時に出ています。
例えば、腕を曲げるときは、腕を伸ばす筋肉を緩めるように
抑制の命令と一緒にバランスをとっているわけです。

反射を起こす命令があれば、反射を抑える命令もあります。

動くための命令がなくなる、あるいは通り道がなくなれば、動かすことはできずに麻痺となります。

反射を抑える信号が届かなくなると抑えが効かなくなって、
勝手に筋肉が興奮して動いてしまう、ある意味動きすぎてしまいます。

これが痙縮と呼ばれるものです。

つまり、痙縮とは、筋肉に力が入りすぎて、動きにくかったり、勝手に動いてしまう伸張反射の亢進状態といえます。

“上位運動ニューロンの障害で、
伸張反射の過興奮により生じる腱反射亢進を伴った
速度依存性の強直性の伸展反射亢進、筋緊張の亢進の状態”
と定義されています。

バクロフェンは中枢性の筋弛緩剤ですが、内服しても脳や脊髄の血管の関門によって通過しにくいため、なかなか内服剤で調整するのは困難です。
よって直接髄腔内に投与するのです。

バクロフェンについて


バクロフェンは、中枢性骨格筋弛緩薬と呼ばれます。
脳からのシナプス反射に作用する筋弛緩薬、ということになります。
一方、末梢性骨格筋弛緩薬は、筋小胞体からのCaイオンの遊離を抑制するものです。

バクロフェンは、中枢神経系のGABA B受容体を刺激して、
γ−運動ニューロンの働きを抑制することで、
シナプス反射を抑制し、骨格筋の筋弛緩作用を示します。
神経の過活動を抑制する、ともいえます。

GABA B受容体の作動薬つまりGABA B受容体刺激作用を示す、GABA Bアゴニスト、ということです。

・シナプス前ニューロンのカルシウム濃度を低下させ、興奮性アミノ酸の放出を減少

一次求心性ニューロン終末からのグルタミン酸、サブスタンスPといった
侵害刺激伝達物質の放出を低下させる
・シナプス後ニューロンでカリウムの伝導性を増加させて神経の過分極を起こす

カリウム流出促進による緩徐型の過分極を発生させる

機序の詳細は後日まとめます。

副作用について


おもな副作用は、
・めまい、眠気、消化器症状
・耐性の形成

重大な副作用は
・中枢神経系作用による意識障害、呼吸抑制

そして、もっとも心配なのは離脱症状です。
離脱症状(幻覚、興奮、けいれんなど)があるので、中止の際は漸減が必要です。

あと、腎排泄なので腎機能低下時には注意が必要です。

適応


治療の適応は重度の痙縮をひきおこしてしまう
脳血管障害後や、頸髄損傷後、小児脳性麻痺や多発性硬化症などです。

従来の内服加療でも効果がなかなか得られない場合で、
少しの刺激で筋肉に異常な力が入り、動きにくいだけでなく、痛い、眠れない
などの症状になって、生活の質が低下してしまう状態に陥っているときに適応となります。

合併症


合併症には
・ポンプやカテーテルの植え込みによる感染
・カテーテルの外れ・中折れ
の他、先述した、
・離脱症状
があります。

離脱症状は非常に心配な合併症です。
機器のトラブルで薬剤の投与が止まることで起こる可能性があります。
薬剤の効果が低下、消失するのみならず、
痒みや痙縮の悪化、精神状態の悪化などの症状が出現してしまう可能性があります。

海外では離脱症状による死亡例の報告があり注意が必要です。

よって、治療には患者さんや介助者にも十分な理解が必要です。

ITB療法のまとめ


取り扱いの手順、正確な手術操作、機械操作が必要なので、
初回の患者さんが練習台にならないよう、
事前にWebセミナーや講習会、ハンズオンセミナーの受講を受けて
Certificationを受領することが必須です。

近年は手技や機材の多くで、
“一例目の患者さんで練習”みたいなことにならないよう、
事前のセミナーを医師に課す業者が増えています。
当然ですよね。