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ITB療法とは、Intrathecal baclofen therapyの略で、
バクロフェン髄腔内投与療法と訳されます。

脊髄損傷や脳血管障害による痙縮の症状に苦しむ患者さんに行う治療法です。

日本では2002年に臨床試験が開始され、2006年4月より保険収載となった治療法です。

バクロフェンを充填したポンプを腹部の皮下に埋め込み、
腹部から背側の皮下に通したカテーテルを腰部脊柱管から直接硬膜内に通して、
髄腔内にプログラムで設定した量のバクロフェンを持続注入します。

バクロフェンについてまとめました。

バクロフェンとは


バクロフェンは中枢性の筋弛緩剤です。
ただし、内服しても脳や脊髄の血管の関門によって通過しにくいため、
なかなか内服剤で適切な濃度を調整するのは困難です。
よって直接髄腔内に投与します。

バクロフェンの作用機序


バクロフェンは中枢性骨格筋弛緩薬で、脳からのシナプス反射に作用する筋弛緩薬です。

それに対して末梢性骨格筋弛緩薬もあります。
末梢性骨格筋弛緩薬は、筋小胞体からのCaイオンの遊離を抑制します。

バクロフェンは抑制性神経伝達物質であるγ−アミノ酪酸(GABA)誘導体の
GABA-B受容体の作動薬です。 
GABA-B受容体に対する、GABA-Bアゴニスト
という言い方ができます。

GABA-B受容体
中枢神経系ニューロンや正常細胞に発言しているγ−アミノ酪酸(GABA)受容体の一つ。
GABA-B受容体はG蛋白共役型として機能する。
三環系抗うつ薬もGABAb受容体を介して作用する。


バクロフェンは、中枢神経系抑制系伝達物質であるGABA誘導体で
脊髄後角に多く分布する中枢神経系のGABA-B受容体を刺激して、
γ−運動ニューロンの活性化を低下させます。

γ-運動ニューロン
γ運動ニューロンは筋紡錘の感受性を高めて
Ⅰa線維からα−運導ニューロンに興奮を伝えることで
間接的に骨格筋の筋収縮を起こしている。


バクロフェンの作用機序は
・シナプス前ニューロンで、カルシウム濃度を低下させ、
興奮性アミノ酸の放出を減少(電気依存性カルシウムチャネルの抑制)

カルシウムの細胞内流入を抑制。
一次求心性ニューロン終末からのグルタミン酸、サブスタンスPといった
侵害刺激伝達物質の放出を低下させる

・シナプス後ニューロンで、カリウムの伝導性を増加させ
神経の過分極を起こす(シナプス内向き整流カリウムの活性化)

カリウム流出促進による緩徐型の過分極を発生させる


かいつまんで、
γ−運動ニューロン中のカリウムおよびカルシウムチャネルに作用して
カリウム伝導率増加、カルシウム減少により
単シナプス反射・多シナプス反射を抑制します。

シナプス反射を抑制することで、神経の過活動を抑制し、
骨格筋の筋弛緩作用を示す、というわけです。

バクロフェンは運動ニューロンの興奮性シナプス後電位(EPSPs)を選択的に抑制し
脊髄における単シナプス反射ならびに多シナプス反射が抑えられる

安藤優子 日薬理誌131.109~114; 2008より
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いやあ、生理学はとっつきにくいですね。。。

適応


治療の適応は重度の痙縮をひきおこしてしまう状態です。
具体的には、
・脳血管障害後
・頸髄損傷後
・小児脳性麻痺
・多発性硬化症
などです。

従来の内服加療でも効果が不十分であることが条件になります。

少しの刺激で筋肉に異常な力が入り、動きにくいだけでなく、痛い、眠れない
などの症状になって、生活の質が低下してしまう状態に適応となります。

不随意運動が生じて随意運動が妨げられている困っている状態、と言い換えることもできます。

副作用


副作用は
・めまい、眠気
・消化器症状
・耐性の形成
などです。

重大な副作用は
・中枢神経系作用による意識障害、呼吸抑制

・離脱症状(幻覚、興奮、けいれんなど)もありますので
中止の際は漸減が必要です。

それから、腎排泄なので腎機能低下時には注意が必要です。

離脱症状について


離脱症状は非常に心配な合併症です。
機器のトラブルで薬剤の投与が止まることで起こる可能性があります。

薬剤の効果が低下、消失するのみならず、
痒みや痙縮の悪化、精神状態の悪化などの症状が出現してしまう可能性があります。
海外では離脱症状による死亡例の報告があり注意が必要です。

治療には患者さんや介助者にも十分な理解が必要です。

まとめ


ITB療法に用いられるバクロフェンについてまとめました。
痙縮は亜急性期から慢性期に生じてくるため、
なかなか急性期に関わる医師には浸透しづらいという側面があります。
これからのますますの発展が期待されます。