診断が遅れた超高齢者の多発性骨髄腫
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はじめに
骨粗鬆症性椎体骨折は高齢化社会に伴いどんどん増加していています。
外来でも高頻度に認めます。
ほんとに、毎回です。
そんな中、猛省することとなった超高齢者の女性の症例を提示します。
タイトルにあるように多発性骨髄腫です。
症例提示
90歳の女性です。
わたしが受け持つようになって3〜4ヵ月くらいでしょうか。
わたしが赴任する前から少なくとも12年来の通院歴があります。
電子カルテが導入されたときから記録が残っているので
もっと前から通院していたのかもしれません。
整形外科と内科に通院していました。
内科では定期的な採血がなされています。
当科受診の主訴は、いわゆる多発性の椎体骨折で、
持続する腰背部痛のため鎮痛剤を定期的に処方しているのだが
当科でそれを継続してほしい
とのことでした。
整形で大腿骨頚部の骨折の手術歴があります。
内科ではビタミン剤とビスフォスフォネートの内服が成されておりました。
以前6ヵ月程度テリボンの皮下注を受けていたことがあります。
椎体骨折の連鎖が起こった


当科通院中に一度転倒されL3、L5の椎体を骨折されました。
90歳で高齢なのでこんなものか、とコルセット加療をおこなって
ビスフォスフォネート内服を以前していたというテリボン皮下注に変更し
1ヵ月くらいしたところで、新規に背部痛を訴えました。
外傷などの誘因はありません。
新規に背部痛の増悪および体動時痛を認めたために、
新たな椎体骨折を疑って撮像したのがこの写真です。
多発性の椎体骨折に、さらにT11に新規骨折を認めます。
まったく骨折の連鎖とは恐ろしいものですね、なんて話しながら、
やっぱり90歳なのでこんなものかな、という気持ちがありました。
また2−3週くらいして背部痛を訴えて
え、また?
と思ってMRIを撮像すると、今度はT5椎体が骨折していました。
なんの誘因もないのに、、、
T5?え?T5が折れたの?T5は疑ってなかったよ。
とさすがにおかしいなと思って、よもや、、、と感じたわけです。
診断がつく事が幸せなことかどうかわかりませんが
免疫電気泳動を行うと、IgG κ型の多発性骨髄腫でした。
骨マーカー調べたときに
高齢者の割に蛋白が8.1あって、ん〜?っと思ったのですが、、、スルーしてしまいました。
Caは補正しても基準値内で、
(Payneの式:補正値=採血値−アルブミン+4)
TRACP5bが高くて、まあそうだろう、
といい加減な解釈していたのですね。。。
あとからMRIをしっかり見直すと透亮像のようなものが写っていますね。
思い込みが患者さんの経過を不幸にする
ということで、自分に都合のいい思い込みで診療してしまいました。
反省しています。
もちろん前医や内科の先生を責めるわけにはいかないです。
自分だって同じですから。
高齢だとか、単純な処方を依頼されただけ、とか
色眼鏡をかけずに、常に新鮮な目で診療しなければならないと猛省しました。
ただ実際、血液内科では骨髄腫に対して積極的な加療は選択されませんでした。
食事もしっかり食べられるし、シルバーカー歩行で生活できるし、
何より高齢ということで、キーパーソンがこのままの経過観察を希望された、
とのことでした。
治療はテリボンではなく、ゾメタなどの骨修飾剤が正解ですね。
本人もご家族も今後もわたしがフォローすることを許して下さいました。
本日のまとめ
診療にはさまざまなことで足元をすくわれることがあります。
・12年来の通院歴
・しかも内科と整形外科
・定期的な採血あり
・90歳と高齢
・椎体骨折、大腿骨骨折の既往
・自立した生活が出来る
・骨粗鬆症あり
このように言い訳を探して落とし穴にはまるのではなく、
常に真摯で新鮮な気持ちで診療しなければならないと痛感しました。
思い込みってほんとに診療を邪魔します。。。
ガイドラインが2018年に改定されました!
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「多発性骨髄腫は腰背部痛を訴えて整形外科を初診する」
— とぜんな脊椎外科医@四つ葉スパインクリニック (@yotsuba_spine) 2019年2月10日
最初に多発性骨髄腫を勉強するのが
「血液内科学」
だけでなく、
「整形外科学」
で骨病変から多発性骨髄腫を検索するプロセスを要項にしておくとよいかもしれませんね。https://t.co/diWNN4t3De
@yotsuba_spineさんをフォロー

コメント
コメント一覧 (4)
PTH製剤の再骨折予防効果は凄まじいものがあることは実臨床での意見であることは間違いありませんので、信じて加療ください。
yoshiさまがご指摘されるように、多発性骨髄腫は、通常の検査では診断できないので、“診察医が、もしかして、、、MMかもしれない、と疑って検査項目を追加する”ことが必須であることが問題です。言い訳になりますが、ルーチン検査では診断ができないのです。そして、それを普段から「おかしいな」と思って検査を行っているのは骨粗鬆症加療を本気で考えている医師です。わたしは種々の会でそれをいま、ひたすら発表しております。
それから、フォルテオの治療を提示する医師は、わたしの診療のポリシーとしては、ぜったいに患者さんのADLをこれ以上落としたくない!という医師だと思います。わざわざ高額の処方をしているのですから。ノリで処方できる薬ではありません。再骨折で入院し、さらに安静のため廃用が進んでいく、、、フォルテオに限りませんが、PTH製剤は間違いなく骨粗鬆症の治療のブレイクスルーです。そのような気持ちで処方しております。
もうひとつ、診断がもし本当に多発性骨髄腫であったとしたら、、、
万が一、多発性骨髄腫としたら確かにフォルテオはよろしくありません。本当に多発性骨髄腫ならば、PTH製剤ではなくゾレドロン酸かデノスマブかということになると思います。わたしの過去記事にはゾメタと記載しておりますが、デノスマブにランマークというすばらしい治療薬があります。更新しておりませんで申し訳ありません。わたしは現在ランマークを使用しております。
記事での反省の患者様は現在ランマークを使用し、元気に通ってきてもらっていることが日々の臨床の励みとなっていることは言うまでもありません。
無責任なコメント、ご容赦ください。
早速のご丁寧なご返事そして温かいお気遣いをいただきありがとうございます。
確かにステロイド性骨粗鬆症に加え、女性ならではの閉経後骨粗鬆症が重なっているのでしょう。骨量検査ではYAM38.8%です。ちょっとしたことで骨折してもおかしくはない値だといわれています。
ところで先日からフォルテオを開始しました。テリパラチドで今後の骨折予防になればと藁にもすがる思いで始めました。が、同時に多発性骨髄腫も気になります。MRIではそのような兆候は見当たらないと診断されましたが、記事中の画像とあまり変わらないような気がしました。母の方がもう少し骨折部位は多いですが・・・。
ご推察の通り素人なりにネットでいろいろ調べましたところフォルテオを含むPTH製剤で治療中に多発性骨髄腫が見つかるという記事が御ブログを含め何件かありました。またPTH製剤が原病憎悪の可能性があるとの記事もありました。それだけに不安は募ります。
ですので今度の採血の機会にご提案いただいている蛋白分画を測定してもらおうと思います。もし疑いがあるようなら、確定診断まではせずにその時点でフォルテオ治療は中止し、記事中にあるゾメタなどに切り替えてもらおうと思っています。仮に確定診断がついてもおそらく記事中のご家族のように積極的な治療は選択できそうもないので。
それではとぜんな脊椎外科様のますますのご活躍をお祈りします。
この度は心労、ご察し申し上げます。
このような稚拙なブログにたどり着くまでインターネットで調べられていたことだと拝察致します。
わたくしは場末のいち脊椎診療医なので、クローン病の長期経過についてはまったくわかりません。申し訳ありません。ですが、ステロイドを長期内服せざるを得ないこと、全身の炎症性の疾患であること、腸管の手術や安静のため栄養状態が悪いことなど多くの要因が影響していることと愚考いたします。御年80歳半ばとのことですので、ステロイド性骨粗鬆症と閉経後骨粗鬆症とが重なっていると思われます。これまでなんとか頑張って支えていた残りの背骨がついに骨折し、おのおのの骨が連鎖的に骨折することは許容される考え方だと思います。ご記載の症状でクローン病の治療経過だけでなく、まさに、多発性骨髄腫を合併しております、とは申しにくいのですが、検査をしないと診断がつかない病気なので、合併しているかもしれないと心配されるのであれば、ひとつの考えとして、蛋白分画を測定してもらってM蛋白がないかどうかチェックしてもらうことは決して誤っているとは思いません。わたしは思い込みの結果、診断がつくのに時間がかかってしまったことを反省しております。
ステロイド性骨粗鬆症の治療に関しては現在各方面でテリパラチドでのエビデンスを集積しているところです。フォルテオでの治療がステロイド性の骨折の連鎖も防いでくれるものと信じたいところです。
わたしのコメントで、ご心労が幾ばくか解消されるとよいのですが、、、
突然の長文メール失礼いたします。
PTH製剤 多発性骨髄腫で検索しこちらのブログにやってきました。
掲載されている画像に「透亮像のようなものが写っています」とありますが
どこがそれに相当するのでしょうか?
実は80歳なかばの母が
この3月に第2腰椎圧迫骨折にて病院に入院していました。
当初熱発38°超あったため化膿性骨髄炎かもとMRIを施行したところ、
それは否定されました。
その後リハビリ病院を経て4月末に退院し、自宅療養していたところ
5月末再び腰の痛みを訴え、受診すると同じ第2腰椎を圧迫骨折していました。
母は50歳なかばにクローン病を発症し、
それからというものプレドニゾロンを服用し続け、
現在は1日5ミリグラムの服用となっています。
典型的なステロイド性骨粗鬆症で
今までも何度か椎体圧迫骨折を繰り返し、背中は丸くなっている状態です。
(10年ほど前骨折した時、1年ほどベネットを服用していました)
しかし今回のように短期間で骨折を繰り返したことは初めてです。
この4〜5年、倦怠感を訴えることや
微熱もたまに出たりしています。
感染症(2度の腎盂腎炎など)も多いように感じます。
最近の血液検査ではRGB316 HB9.7と貧血状態です。
TP5.1 ALB2.8とこれは昔から栄養状態は悪かったのですが
ALP409 γGTP53 BNP75となっています。
今のところクレアチニン0.46ではありますが、
違うことを祈りながらも
多発性骨髄腫だとすれば説明がつくのかなとも思っています。
このたびフォルテオを処方してもらったのですが
このまま続けていいのか悩んでいるところです。