気管切開術の恐怖について
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はじめに
頸髄高位に責任がある頸髄損傷であれば横隔神経麻痺が出現するために
人工呼吸器のサポートが必要になります。
持続的な装着が考えられるために気管切開術が適応されます。
気管切開は単純な処置ようで、実は甚だしい恐怖を伴う手技です。
気管切開術の恐怖、合併症についてまとめました。
①出血
研修医時代に気管切開の助手についたときです。
甲状腺に遮られてどうしても気管にアプローチできないということで
甲状腺狭部の左右をコッヘル鉗子で把持して狭部を切断しようとされましたが、
剥離のときにじわじわ出血してきました。
吸引しても術野がすぐに出血で埋もれてしまい、視野がわからず本当に怖かったです。
甲状腺は血流が豊富な臓器なので、
まず、出血させないという強い気持ちで丁寧に丁寧に、
展開を焦らず少しずつ、出血したら都度止血する、
というデリケートで慎重な操作が重要であることを肌で感じました。
②経口挿管チューブを抜いた後にカニューレが入らない
気管に切開を加えて、さあカニューレを挿入だというときに、
まだ準備が十分できていないのに経口挿管チューブを完全に抜去されてしまったことがありました。
切開の穴が小さくカニューレがうまく入りません。
みるみるSatが低下して非常に焦りました。
本当に怖かったです。
経口チューブが直視できるので、
すこしずつ抜いて気管切開の孔をすぎたところで寸止めしてもらうのが大切です。
いざという時に再度挿管できるようにしておくのです。
③術後当日にも関わらずカニューレが脱落した
誰もが脱落させたくて起こったわけではないのですが、
体位の交換や体動により偶発的にカニューレが抜去されてしまうことがあります。
もちろん理屈の上ではあってはならないことでしょうが、
現実では生じてしまうことがあります。
術後早期は気管の瘻孔がまだしっかりと形成されていないため、
カニューレを交換しようとおもっても瘻孔に入らないことがあります。
愛護的でない操作は気管周囲の軟部組織に容易に誤挿入につながってしまうのです。
呼吸器が命綱になっているため、致命的な事態が起こってしまいます。
再設置したカニューレにアンビューで換気できず焦りました。
誤挿入にすぐに気づいて再挿入することができたのですが、本当に怖かったです。
最重要事項は脱落させないことですが、再置換のときに誤挿入にすぐに気づくことも重要です。
誤挿入により胸膜を損傷し気胸をきたしたケースも報告されます。
要注意です。
④カニューレの閉塞
出血や喀痰によりカニューレが閉塞すると一大事です。
例えるならシュノーケリングをしている際に海水が入ってきたようなものです。
あっという間にSatが低下し、それについで徐脈、心停止に至ります。
Sat低下に気づいたときにすでに徐脈になって急変しかけて、
アンビュー加圧するも加圧できず、喀痰でカニューレが閉塞していたことがありました。
吸引により加圧できるようになり大事には至りませんでしたが、本当に恐ろしかったです。
十分な加湿、頻回の吸引が必要で、状況によっては気管支鏡で洗浄吸引などが必要です。
他の合併症
他、教科書的な合併症は
術後皮下気腫・縦隔気腫
気管切開後に胸部レントゲンで確認する。
頚部、胸部、縦隔、顔面をしっかり観察、握雪感がないかしっかり診察する。
片肺換気
気管分岐部に近いと片側換気になるリスクがある。
これも術後レントゲンでカニューレの位置を確認する。
瘻孔閉鎖時の気管再狭窄
気管は逆U字に切開するかH型に切開するかがときに指導医間で意見が異なるところですが、
瘻孔閉鎖時に気管の再狭窄が起こることがあるそうです。
経験したことはありません。
腕頭動脈気管支瘻
慢性的な吸引の刺激やカニューレの物理的刺激により
気管前壁に接する腕頭動脈と気管支に瘻孔を形成してしまうことがあるそうです。
致命的な合併症に発展してしまいます。
本日のまとめ
記事を書いていて研修医のころを思い出し身震いしました。
本当にあの恐怖は二度と経験したくはありません。
気道は命綱です。
慎重な対応が必要です。
気道に関するトラブルが発生しないことを切に望みます。
★★★★★
星地先生の経験と知識が余すところなく収められております。教科書らしくない教科書で、非常にわかりやすい!そして、なにより面白いです。絶対に一読すべきテキストです。
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