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はじめに


場末の病院で脊椎の診療科をたちあげ、
診療が初心に戻って、はじめて気がついたことがあります。

それは、脊椎診療科において多発性骨髄腫が多いことです。

実は、この1年で椎体骨折を契機に7人ほど診断しました。

恥ずかしながら、これまでの10年で、自分で多発性骨髄腫を診断したのは5名はいないと思うのです。

この1年で10年を追い越しました。
十分な初回診察ができていたとは思えない結果と反省しています。

これについて考察(言い訳?)します。

多発性骨髄腫の4つの診断経路


多発性骨髄腫は形質細胞のがんです。

1年間において、約5人/10万人発症するとされております。
Angtuaco EJC,et al: Multiple myeloma: clinical review and diagnostic imaging.
Radiology. 2004;231:11–23.


どの経路で診断がなされるのでしょうか?

通常、多発性骨髄腫の教科書を紐解くと、診断に至るまでの経路として、

①造血抑制
→貧血、白血球減少、血小板減少
→動悸、息切れ、発熱、感染症、出血

②M蛋白増加
→免疫低下
→感染症(肺炎、尿路感染)

③腎機能障害
→浮腫、頭痛、神経症状

④骨破壊、高カルシウム血症
→口渇、意識障害
→病的骨折に伴う症状

の4経路がありそうです。

診断のために血液検査や、尿検査でM蛋白を調べて、最後に骨髄生検を行うと。
そして、多発性骨髄腫と診断されたならば、
全身の骨病変の広がりを調べるためにレントゲン/CT/PET検査などを行うとされます。

有名な骨打ち抜き像、たしか国試のときに頭蓋骨レントゲンのpunched out lesionをよく覚えています。

多発圧迫骨折で来院する多発性骨髄腫を見逃さない


つまり、
わたしたち(わたし?)に多発性骨髄腫の骨折に対する意識が低いのではないか、
と感じました。

健康診断や発熱などの症状、腎機能障害などの症状で来院し、
血液検査をした結果、多発性骨髄腫が疑われる患者さんももちろんいるのでしょう。

しかし、われわれ脊椎診療科には背部痛、腰痛で来院される多発性骨髄腫の患者さんが
もしかしたらもっと山のようにおられるのではないか?

意識の低さから、初回の骨折を、病的骨折と捉えずに、
いわゆる骨粗鬆症性の圧迫骨折と診断してしまうのが原因ではないか?

初回で診断がついた3症例での骨折病変については、
これは明らかに病的骨折で、多発的に他部位にも骨透亮像を認めました。

残りの4例は、単に
・骨折の数が多い(5個以上)
・骨折椎体の圧壊がつよい
というものでした。

血液検査でも、80台後半の患者さんで
・Hb10-12くらい
・Crが1.2くらい
・Caは基準値です。

まあそんなものかなと思ってしまいます。
ただ、やっぱり可能性の問題もあるので
蛋白分画を調べるとM蛋白が検出されました。

多発椎体骨折は骨髄腫の可能性を否定しない


Meltonらは多発性骨髄腫165患者を調べて、
81%の134患者さんに225箇所の骨折を認めたと報告しています。
しかもその118個は椎体骨折でした。
Melton LJ III, et al: Fracture risk with multiple myeloma: a population-based study.
JBone Miner Res 2005;20:487–93.”


MillerらはSpine Jouralに、
多発性骨髄腫と診断した脊椎骨折を呈した50人の患者の中で、124の骨折が観察され、
そのうち大多数の76%もの患者には、以前のMMの診断がなされていなかった
と報告しています。

そして、最も一般的な症状を呈しているの背部痛(84%)、
続いて神経症状が54%で、
全身状態の症状は50%であったと報告しています。

さらに、骨折のない患者が多発性骨髄腫と診断がついて
その後半分が4ヵ月で椎体骨折をきたしていました。

Miller JA, et al: Radiologic and clinical characteristics of vertebral fractures in multiple myeloma.
Spine J. 2015;15(10):2149-56.


多発性骨髄腫による骨折を疑わせる所見


・BMIの低下
・アルブミンの低下
・クレアチニンの上昇
・短期間で骨折が再発するもの
・骨折の圧潰が強いもの
は多発性骨髄腫による骨折を疑わせる可能性のある所見のようです。

このような症例はいわゆる多発性骨髄腫を疑うデータが年齢に対してacceptableと思っても、
M蛋白を調べて積極的に多発性骨髄腫を診断するようにすべきだと思いました。

本日のまとめ


脊椎診療は本当に奥が深いと思います。
多発性骨髄腫は脊椎診療科が疑って検査していく疾患の一つだと考えなおしました。

とくにBKPを行っている以上、慎重な対応が必要だと感じています。