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はじめに


いまわたしにとって、トピックなことなので、
引き続き、頸椎固定術後の気道狭窄についてのまとめです。

今回は、麻酔科の先生の報告例を検索してみました。

多数あります。

そのなかで閲覧できたもので、抄録集まで含めてまとめてみます。

症例の経過


GEBを用いたAWSによる挿管が有用であった頸椎前方固定術後の気道閉塞の1例
済生会松坂総合病院麻酔科 河埜玲子ら

C5/6前方固定術後約10時間後より呼吸苦の訴え。
MRIで血腫による気道の狭窄あり。
局所麻酔で血腫除去を行ったが改善せず、気管切開を行うことに。
手術室の入室の際に突然著明なstridor、チアノーゼ。
Satは60まで低下し意識消失。


この報告の症例は47歳、男性、C5/6の頸椎ヘルニアに対する前方除圧固定術です。
標準的な治療なのに、気道閉塞が起こり得るわけで、
やはり頸椎前方固定は気道の問題が大変恐ろしいです。

GEBとはガムエラスティックブジーのことです。
わたしには馴染みありませんが。。。

人工呼吸器管理に関するブログ
に詳しいです。

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AWSはエアウェイスコープですね。
絶対に後屈させたくない頸椎損傷、頸髄損傷の際の挿管器具
で紹介しました。

挿管不能換気不能に対して輪状甲状膜穿刺によって救命しえた2症例
森島久仁子ら 麻酔:62(12)

1例目はリウマチに伴う環軸椎亜脱臼、O-C4固定のrevisionでO−T1固定施行後の経過です。

抜管直後からのSat低下。40%台まで低下。
CICV状態で、Mini-TrackⅡを用いて輪状甲状膜穿刺を行った。
その後経鼻的ファイバースコープで声門浮腫が原因であることを確認。

2例目は圧迫性頸髄症に対するC5/6前方固定です。

術後夜間に呼吸困難感の訴え。
MRIで血腫あり、緊急血腫除去に向かう際にどんどん増悪。
Satは50台まで低下。
経口ファイバースコープでは有効な視野が得られず
Mini-Trach Ⅱを用いて輪状甲状膜穿刺を行ない換気。


挿管不能換気不能状態を
CICV: cannot intubate cannot ventilate

というそうです。

CICVに陥る確率というのは0.017-0.07%と報告されているそうです。

全麻酔手術からしたら確率は低いかもしれませんが、
脊椎固定術で統計をとるともっと頻度は高いかもしれません。
ほんとうに恐ろしい、、、

頸椎前方固定術後に発生した上気道狭窄に対する
経皮的輪状甲状靭帯穿刺チューブ(Mini-Trach Ⅱ)を介した呼吸補助の有効性
有宗睦晃ら 麻酔.2004.53

症例1
人工透析中、破壊性脊椎炎による頚髄症のためC3-6前方除圧固定
術後ハローベスト

術後15時間より呼吸困難感
術後20時間気道狭窄
輪状甲状靭帯穿刺 Mini-Trach使用

症例2
化膿性脊椎炎でC4亜全摘、腓骨骨移植による前方固定
ハローベスト装着

術後挿管したまま帰室
6時間後抜管
去痰困難予想のためMini-Trach使用していた
抜管20時間より呼吸困難、呼吸状態悪化
Mini-Trachから呼吸補助開始した


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Mini-Trach。
すぐにこのようなキットが出てくるか、そしてこの緊急時にスムーズに扱えるか。
シミュレーションしてトレーニングしておくことが大切かもしれません。

経過のまとめ


これらの固定術後の経過をまとめると、
・抜管直後から呼吸困難が出現することがある
・抜管後平静にみえても術後血腫や浮腫による気道閉塞をきたすことがある
・さらにそのような状況は往々にして、再挿管が困難である


そして、呼吸苦の訴えがあり、経過を見ている間にラッシュに事態が悪化してしまう、、、
知らないと本当に怖いです。

まさに悠長に経過観察、など指示してはいけないと思います。

気道狭窄は本当に緊急事態です。
生命の危機におよぶ前に気道を確保する対応が必要になってくるのではないでしょうか。

腫脹のピークは2,3日で腫脹のピークに達し、その後改善してくると言われておりますので
その期間をどのように対応するか、ということだと思います。

挿管管理のひとつのめやすとして、
術後の後咽頭ー椎体間の前後長が15mm以下になるまで
挿管による管理が重要としている報告もあるようです。

術後の上気道浮腫を生じる危険因子


術後の上気道浮腫を生じる危険因子が述べられておりました。

・気管チューブによる粘膜の損傷
・不適切なチューブ径
・気管チューブの固定が緩い
・挿管技術
・激しいバッキング
・過剰なカフ圧(>25cmH20)
・高い気道内圧(>30cmH2O)
・頻繁な気管吸引
・感染や低血圧
・術中体位(頭低位や腹臥位)
・挿管気管(>10日間)
・性別(女性>男性)
・過剰輸液
など

この記載を読んで思ったこと。
麻酔科の先生は本当に手術で患者さんの安全を考えてくれている一番の先生なんだな、と。

術後の気道周囲の軟部組織の腫脹の原因は
手術にある、つまり術者のせいと考えてしまいます。

麻酔科の先生は、この術者の因子を除いて、麻酔の中でなにか改善点を考えてくださっているのですね。
尊敬。

脊椎外科医の目では、
手術時間とか出血量とか除圧範囲
あるいは固定位置による咽頭スペースの狭小化
などが影響していると思われます。

本日のまとめ


頸椎固定術後の気道狭窄について
麻酔科医の目からみた報告をまとめてみました。

とにかく気道の問題は生命予後へ直結してしまうので
慎重な対応が求められます。

楽天的な指示だけはださないようにこころがけて診療をおこなわないといけませんよね。


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