嘴型の胸椎後縦靭帯骨化症の治療計画はとてもとても難しい
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はじめに
“胸椎OPLLは脊椎外科医にとって、もっともチャレンジングな手術であることは間違いありません。
決して安定した手術成績が得られるわけではなく、そして手術方法に適切な答えは未だありません。
臨床成績の蓄積により最適な答えを模索しているのが現状なんですよ。”
って新規ローテーターに説明しても、
「ふ〜〜ん・・・」
・・・ちょっとがっかり。
最難関な理由をまとめたので、目を通しておいてね。。。
胸椎OPLLが最難関ハードルである理由
胸椎OPLLが最難関ハードルである理由を以下に列挙します。
挙げれば挙げるだけ、ほんと、きりがないよ。。。
・手術しても症状が改善しないことがあります(多いです)。
・むしろ術後に運動麻痺が悪化してしまうことすらあります。
・しかもそれはMMT1レベルまで、すなわち完全麻痺のレベルにまでなってしまうこともあります。
・さらに、それは粗雑でなく丁寧で愛護的な手術操作を心がけているにも関わらず起こり得ます。
・なんと、腹臥位の体位変換のみで生じてしまうこともあります。
・後方手術、前方手術法、さまざまな術式が報告されています。それはつまり、確立された手術法がないということです。
・もっとも困ることは、胸椎OPLLのほとんどが保存治療での改善が期待できません。徐々に悪化していきます。
・よっていずれは手術が必要になってくるわけですが、下記に述べるように、歩行が悪化した状態のような重篤な神経症状では手術成績が悪いです。
こんな疾患なのに、わたしたちには確実で安定した成績を求められます。
わたしが経験した症例は、こたつで腹ばいになっていて足が麻痺して救急搬送されました(涙)。
われわれもそうですが、本人も驚愕です。
胸椎OPLLの治療不良、良好の因子
胸椎OPLLについて豊富な経験があられる名古屋大学のImagama先生が以下のようにまとめていらっしゃいます。
Imagama先生の論文
Neurosurgery. 2017.1;80(5):800-808.
Risk Factors for Ineffectiveness of Posterior Decompression and Dekyphotic Corrective Fusion with Instrumentation for Beak-Type Thoracic Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament: A Single Institute Study.
Oper Nerurosurg. 2017.1;13(6):661-669
Factors for a Good Surgical Outcome in Posterior Decompression and Dekyphotic Corrective Fusion with Instrumentation for Thoracic Ossification of the Posterior Longitudinal Ligament: Prospective Single-Center Study.
胸椎OPLL手術患者66人のうち、6%で神経症状の下肢症状の改善を示さなかった、あるいは悪化したので、追加でOPLL切除したそうです。
・重度の運動麻痺
・歩行不能
・腹臥位テストPST(prone and supine position test)陽性
・術中エコー検査で十分な脊髄浮遊が得られない
・手術終了時の脊髄モニタリングの減衰
・OPLLの局所角と胸髄の角度の違い
・OPLL長
・OPLL部の脊柱管の狭窄
これらがあれば、神経症状不良になりやすい。
一方で、良好な転帰は76%でした。
多変量ロジスティック回帰分析では、
・腹臥位テスト陰性(OR:17.00)
・術前歩行状態がよい(OR:6.05)
・OPLL追加切除不要症例、黄色靭帯骨化がない 、MRIでT2髄内高信号なし(OR:5.84)
・術中の脊髄浮上が十分得られる(OR:4.98)
・出血量が少ない(OR:1.01)
が良好な手術成績に重要な因子として、挙げられました。
良好な手術成績を得るためには
ということで、わたしなりにまとめると、
1.歩行状態が悪化する前に、
2.MRIで輝度変化を呈する前に
3.手術のタイミングを逃さず,
4.アライメントの的確な手術計画で、
5.失血しない的確な手術手技で、
6.的確に術中脊髄モニタリングやエコーを駆使して
手術を行いなさい。
さすれば、安定した手術成績が得られん!
さらに、治療経過不良例に追加で行っておられる、
RASPA; resection at an anterior site of the spinal cord from a posterior approach
の手技についてもまとめてくださっております。
Global Spine J 2016;6:812–821.
一読しておくべきでしょう。
本日のまとめ
わたしの伝え方が悪いのでしょうか。
ローテーターに胸椎OPLLがいかに重篤なものかについて、あまり理解してもらえなかった反応につき、記事にすることにしました(涙)。
後方手術でdekyphosisを行うにしても、追加でRASPAのように切除にもっていける技術と体制がなければ、その施設で胸椎OPLLに挑むべきではないと思っています。
わたしのことです。はい。
イラストレイテッド・サージャリーに今釜先生らの“胸椎後縦靭帯骨化症に対する後方除圧矯正固定術”がまとめてあります。
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