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はじめに


民間の場末の救急施設で診療していると、紹介での救急受診はほとんど参りません。

今回もとてもびっくりした次第なので報告します。

症例提示


60台の男性です。とくに既往や服薬歴のない健常な妻子ある方です。

主訴は上腹部痛。

夕食を終えて、突然痛みだしたそうです。

夜間の急患センターに行き、ペンタゾシン、ラニチジン塩酸塩投与を受けたそうですが、いまひとつ改善が得られないということで救急搬送されました。

搬送中に、上腹部から心窩部にまで痛みが広がってきたそうです。

外科で対応、採血、心電図や胸腹部CTが撮像されましたが、原因がはっきりしません。
憩室炎の診断で観察入院の運びとなりました。

診断名


翌朝になると、下肢に不随意運動が出現し、神経内科で薬物療法がなされましたが改善しません。

晩になって、下肢麻痺症状が明らかとなった、、、、

診断名
急性硬膜下血腫

IMG_20181212_174212


すこしわかりにくいですが、MRIです。

Th5-7付近に脊髄腹側につよい全周性のT2強調画像で低信号域の占拠性病変が見えます。

時間経過からはデオキシヘモグロビンとなっていると思います。

下肢麻痺が初発症状ではないのか


うーーん、超珍しいです。

少なくともわたしは初めての経験です。

通常、出血部位に応じた高位付近の疼痛を伴いつつ、急速に麻痺症状が出現するものだと認識していました。

脊椎の急性硬膜下血腫は、文献といっても症例報告が散見される程度です。

最新のケースシリーズを報告します。

de Beer MH, Eysink Smeets MM, Koppen H. Spontaneous Spinal Subdural Hematoma.
The Neurologist 2017;22:34–39

スクリーンショット 2018-12-22 10.08.46


18歳以上、122例のsystematic reviewです。

この文献によれば、

・特発性硬膜下血腫は胸椎領域がほとんど。約40%。
・運動機能障害が最も多い症候。89%。
・つづいて、84%で疼痛。
・局所の背部の痛みが93%に対して、根性疼痛は30%。
・感覚障害は64%に認めた。
・膀胱直腸障害は45%。
局所の神経脱落症状を伴わない、根性疼痛のみ、はわずかに6%であった。

ということらしいんですね。

上腹部痛、心窩部痛をradiculating painで説明すれば、このわずか6%の症例なんですよね。

この症状で、脊椎血管障害を疑えるか??
いや〜、とてもとても困難といえます。

治療法もコンセンサスなし


治療についてもコンセンサスがありません。

本症例に関しては、非常に幸いなことに、3DCTAを撮像している間に麻痺症状が改善してきたので保存加療でみれました。

進行する麻痺に対しては、緊急での椎弓切除、硬膜切開、歯状靭帯切除、減圧、血腫除去をやらざるを得ないと思います。
ところが緊急で手術を行ったところで、麻痺が改善する例と残念ながら改善しない例があるようです。
そのくせ本症例のように保存加療のみで麻痺が改善していく症例もあり、正直、判断が難しいです。

しかし硬膜外血腫同様、進行する麻痺症状があれば、手術しかない!といったところです。

本日のまとめ


非常にまれな発症形式をした硬膜下血腫でした。

上腹痛や心窩部痛で、脊椎由来の症状を疑うことは正直できません。
しかし、上肢や下肢に麻痺症状が出現してきた場合は、速やかにMRI撮像の判断を下しましょう!!


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