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はじめに


この度、ご縁あり、地域の医師会の医療連携の会で講演する機会をいただきました。

骨粗鬆症関連の会になるため、内科・整形外科開業医中心となりそうです。

この講演で伝えておきたい関心事のひとつとして、

「多発性骨髄腫は腰背部痛を訴えて整形外科を初診する」

を取り上げたいと思っています。

転移性椎体腫瘍との鑑別のみならず骨粗鬆症性椎体骨折でも鑑別が必要


わたし自身も多発性骨髄腫の関わりは病的骨折の際の転移性椎体腫瘍との鑑別のみでした。

しかし、自分の診療の反省から、むしろ高齢化社会を迎えて、骨粗鬆症性椎体骨折との鑑別が重要だと気づき、より積極的に多発性骨髄腫について意識するようになりました。



多発性骨髄腫は腰背部痛を訴えて整形外科を初診する


多発性骨髄腫の主症状は腰背部痛です。
よって腰背部痛を訴えて整形外科を受診するケースがほとんどです。

吉松弘喜先生ら2012年のJ. Spine Res.の報告では、
多発性骨髄腫86例のうち、52例が診断までに整形外科の受診歴がありました。
スクリーンショット 2019-02-10 15.44.17

戸田雄先生らの2017年の整形外科と災害外科の報告では、
多発性骨髄腫と診断された103例のうち、主訴が腰痛であったのは42例でした。そのうち29例が整形外科を初診していました。
スクリーンショット 2019-02-10 15.58.50


多発性骨髄腫を見逃された症例のほとんどが圧迫骨折や変形性脊椎症、単なる腰痛症などと診断されています。
とぜんMM.001

いずれの報告でもMRI単独での病的骨折の鑑別は難しく、多発性骨髄腫を鑑別に挙げて、血液検査や尿検査を追加することが重要である、としています。

椎体病変があっても鑑別できない例が多々紛れている


そう、たとえMRIで椎体病変を認めても、それが多発性骨髄腫によるものか、骨粗鬆症によるものか鑑別がつかないものが多々紛れ込んでいます。

痛みの原因は圧迫骨折の診断となり、診断に基づいて外固定などの治療のPhaseとなるわけです。
診療医の中では診断が終了し、それ以上の検索はなされません。

つまり、この診断のやり方では多発性骨髄腫の診断には至らないのです。

多発性骨髄腫と診断するための契機


従来の診療方法で多発性骨髄腫と診断を得たときのきっかけというものは以下の二つです。
すなわち
①非典型的な病的骨折の画像所見
②通常の採血でひっかかるほどの生化学異常
を得て初めて、さらなる検索が行われることになります。

生化学異常は、高度貧血や、総蛋白増加、腎機能障害、高カルシウム血症などとなります。
とぜんMM.002

最近は骨粗鬆症加療においても骨代謝マーカーを測定する医師が増えているので、椎体骨折診断と同時に採血を行っている施設もたくさんあることだと思います。

②の所見が得られれば多発性骨髄腫を疑うことも可能となってきます。

しかしそれではまだまだ不十分かもしれないな、とわたしは思っています。

血清蛋白分画を測定する


RA Kyle et al: Leukemia. 2009, 23: 3–9の論文を紹介します。
スクリーンショット 2019-02-10 17.43.13

医師国家試験の勉強で、「多発性骨髄腫はCRAB徴候!」と勉強したはず、、、
しかし
C: hypercalcemiaは13%
R: renal failureは19%です。
それに対して
A: anemiaは72%
B: bone lesionは80%です。
いっぽうで血清蛋白分画でのM蛋白検出は82%でした。
とぜんMM.003

つまり、CRAB徴候は診断のあてにならないということです。

この論文から、生化学検査での血清M蛋白検出が診断に重要と考えています。

整形脊椎外科で椎体骨折患者を対象にすれば、bone lesionは100%。
・椎体骨折が多発している場合
・好発部位の胸腰椎移行部以外にも骨折がある場合
・短期間で再骨折する場合
・疼痛が頑固に持続している場合

このような場合は、さらに踏み込んで骨代謝マーカーのみならず、蛋白分画を測定するようにしています。

本日のまとめ


これらの3論文はとても勉強になりました。

骨粗鬆症性椎体骨折に紛れ込む多発性骨髄腫については、機会あるごとに発信していきたいと思っています。

学生時代に多発性骨髄腫を勉強するのが血液内科学であることも問題のひとつのように思えます。

整形外科学としても骨病変から多発性骨髄腫を検索するプロセスを初学のときから要項にしておくといくらか改善されてくるかもしれませんね。


ガイドラインが2018年に改定されました!


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