ペインクリニックから多発性骨髄腫の報告
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はじめに
場末で脊椎診療をしているわたしの最大の敵のひとつが椎体骨折です。
よく記事にしています。
今わたしが感じていることは、骨粗鬆症性の椎体骨折は除外診断であるということです。
「高齢者だから、椎体骨折=骨粗鬆症」
ということではなく、
「高齢者の椎体骨折は悪性疾患を除外してから骨粗鬆症性とする」
の考えでいたほうが問題が少ない、被害が小さいということです。
病的骨折では?を考える習慣にする
骨折の原因は
・外傷性
・悪性腫瘍転移
・骨髄腫などの原発腫瘍
・感染
・骨粗鬆症性
などが挙げられると思います。
高齢者ほどこれらの疾患のリスクが高まります。
なので、「高齢者だから、椎体骨折=骨粗鬆症」はもう、やめましょう。
病的骨折ないかな?ないな、それなら骨粗鬆症性椎体骨折かな、、、とするのがよいでしょう。
画像では初期は鑑別できません
慢性腰痛について邦文を漁っていたら、下記論文にヒットしました。
ほんとうに申し訳ない気持ちになりました。
この論文では初診はおそらく整形外科です。
疼痛が改善しないため、ペインクリニック科紹介、というエピソードの症例もおられます。
この論文でも触れられている通り、多発性骨髄腫による椎体病変はレントゲンやMRIでは鑑別できないことが問題になります。
椎体病変は指摘できますが、それが骨粗鬆症性椎体骨折と画像からは区別できない。
なので、「高齢者だから、骨粗鬆症性椎体骨折」と診断してしまうわけです。
単純 X 線写真および MRI は、多発性骨髄腫による圧迫骨折と骨粗鬆症による新鮮圧迫骨折の鑑別には適さない。その理由は、多発性骨髄腫の初期には、腫瘍は骨髄内に限局しており、病状の進 行とともに海綿骨、皮質骨や骨膜を破壊するので、発症初期には単純 X 線写真で明らかな異常がないことがあり、MRI は脊椎病変の検出感度は高いが、多発性骨髄腫も骨粗鬆症も、正常骨髄に比べ、T1強調画像では低信号、T2 強調画像では高信号という共通の所見を示すからである.
初期こそ早期介入して、腫瘍による有害事象が出現する前に対策を練っておくべきです。
画像では鑑別できないことをしっかり念頭に置いておく必要があります。
それならば、どうしたらいいのか?
なんらかの経過異常で追加検査をするのか、最初から積極的に検査をするか
この論文の結論は、
椎体圧迫骨折の疼痛治療では,痛みが長期にわたる場合や疼痛が軽減しない場合には、多発性骨髄腫を念頭におき精査する必要がある
でした。
そして、
・高齢の男性
・貧血を伴う症例
・高蛋白血症
では、多発性骨髄腫の可能性を疑い、積極的に検査を進めることが重要
としています。
すなわち、臨床経過と採血異常をみて、検査を追加していくことがいいのか、ということなんですが、わたしの施設のような救急病院ではじっくり観察していくことができませんので、いまでは、初回から積極的に検査をしています。
具体的には、骨代謝マーカー測定に合わせて、
・アルブミン/グロブリン比
・蛋白分画
・インタクトPTH
は骨折判明の初回で測定するようにしています。
蛋白分画で異常があれば、免疫電気泳動まで追加しています。
そして、これらの検査は再骨折判明の都度測定しています。
初回骨折で問題がなくても、2回めあるいは3回目で骨髄腫と判定されるかもしれないからです。
Tスポットや悪性腫瘍マーカーなどの測定には画像所見で判断しています。
高齢化社会とがん治療進歩は、がんサバイバー患者の増加をもたらしました。
— とぜんな脊椎外科医@四つ葉スパインクリニック (@yotsuba_spine) September 4, 2019
脊椎は骨転移でもっとも多い部位です。
すなわち、脊椎への骨転移症例も増加しております。
腰痛で、原発不明がんを初療する機会が確実に増えていると実感します。
腫瘍マーカーのまとめ。https://t.co/Q5qWQ3tbsE
これで、いまのところ大きな問題なく、おそらく患者さんも被害はこうむっていないと思っています。
多発性骨髄腫の診断は画像では無理。積極的に血液検査を追加すべし
折に触れて、多発性骨髄腫の診断が難しいことを話題にしています。
画像で診断しようとするから難しいのであって、感情を排して、血液検査をルーチン化しなければならないと思っています。
とくに蛋白分画については、救急病院であれば、骨粗鬆症性椎体骨折と思われた症例の採血にルーチン化してもいいのではないか、と思っています。
保存加療にせよ、BKPなどの介入にせよ、すぐに転院、退院してしまうからです。
その後外来で丁寧に観察できればよいのですが、そうでなければ、適切な診断がなされないまま、今回の論文のケースのように、後医の情熱により診断がなされることにつながります。
本日のまとめ
多発性骨髄腫、初診にあたったわたしたちでなるべく診断をつけてあげたいです。
このような論文を読むと、襟を正される気持ちになります。
他科と症例を共有して、よりよい医療連携をつくって社会貢献できればいいなあ、と思う今日このごろです。
ただ、どのように行動していいかがわからないんですよね、、、
ご縁を頂き、地域の医師会医療連携の会で講演する機会を得ました。
— とぜんな脊椎外科医@四つ葉スパインクリニック (@yotsuba_spine) September 4, 2019
内科・整形外科開業医中心だったので、
「多発性骨髄腫は腰背部痛を訴えて整形外科を初診する」
を取り上げました。
そのスライドのまとめ記事です。
診療にお役に立てれば本当にうれしい。https://t.co/diWNN4t3De
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