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はじめに


ありがたいことに専攻医が手術に入ってくれる機会が増えています。

今回は骨盤外傷でした。

腸骨にスクリューを刺入したので手順をまとめておきます。

自己学習のきっかけになってくれれば嬉しく思います。

あくまでとぜん式になるので、ほか道場や文献などで各自勉強して更新してくださいませ。



腸骨スクリューは言うまでもなく強力な尾側端アンカーです。

今回のような骨盤輪損傷の後方固定以外にも用います。

例えば、L5/S1偽関節問題の解決策に用います。
ふつう脊椎固定では、L5/S1が固定の最下端になりますが、S1は海綿骨が豊富でスクリューのききが悪く、偽関節になりやすいからです。

ほか、骨盤の矢状面バランスの矯正を得るためにも、この強力な腸骨スクリューのアンカーを使います。

なので、腸骨スクリューは脊椎手術において、非常に重要な役割を担うものです。

術前にTear drop signをセッティング


腸骨スクリューをフリーハンドで刺入する海千山千の猛者がおります。

先ほども言いましたが、スクリューの逸脱は即致命傷になってしまうので、わたしは未熟さを補うため、透視を確認しながら刺入しています。

一番助けになるのが、腸骨の軸写像、Tear drop signです。

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ジャクソンテーブルだと大丈夫なのですが、通常ベッドだと、透視がベッドの脚に衝突したり、サイドレールで描出できなかったりします。

なので術前に角度をセッティングして、描出可能かベッドの何かが邪魔しないかを評価しておかないといけません。

ちなみにわたしは「ジャクソンテーブルあり」から入ったので、tear dropの庇護の下でしかスクリュー刺入できません。

tear drop signについて


tear drop signは、坐骨切痕と腸骨内板・外板、臼蓋で形成される涙滴、tear dropの形状です。

だいたい、頭側20-30°、外側40-50°の間で最大・明瞭に見えます。
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この涙滴tear dropが、スクリュー刺入の的になります。

通常の腸骨スクリューにせよ、sacral alar iliacスクリューにせよ、スクリューがtear dropの的の中心にくるように刺入していけばよいのです。
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術前のセッティングでスクリューのトラジェクトリーを把握しておく


なので、ドレープをかける前に体位と透視の角度をセッティングし、スクリューのトラジェクトリーを把握、シミュレーションしておきます。
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S1スクリューヘッドと、腸骨スクリューのヘッドの位置を術前におおまかに把握しておくことが、ロッドとの連結時に慌てないコツです。

仙腸関節の形態によって刺入の難易度が異なる


仙腸関節の形態によって刺入の難易度が異なります。

具体的には、仙腸関節の前開きが強いかどうか、です。

近藤先生は、近藤章ら;J. Spine Res. 9:854-857, 2018で、

「PI,PT が大きい症例では仙腸関節の矢状面に対する前方開角が小さくなっており,S2AI スク リューを刺入しやすい傾向がある」

と述べておられます。

SAIスクリューに限らず、腸骨スクリューでも、LSITでも、仙腸関節の形態を術前CTでくままく確認して、スクリューが刺入される角度をシミュレーションしておきましょう。
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ワーキングスペースが確保できない


tear drop描出中は、腸骨スクリューを刺入するだけのワーキングスペースがほぼほぼ確保できません。

なので、中空スクリューを用いることがおすすめです。

J probeで最初に4cm程度刺入しておき、透視を入れて術前セッティングしておいたtear dropで方向を確認します。
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そしていったん透視を外して、さらにprobeをすすめて、ふたたび透視で確認。
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OKであれば透視を外して、中空タップを切って、ガイドピンごしにスクリューを刺入します。

手間ではありますが、わたしの未熟さをカバーするには透視が必要なのです、、、

本日のまとめ


腸骨スクリューは脊椎手術において大事な場面を担う重要なスクリューですが、一方でスクリューの逸脱、誤刺入は骨盤内の臓器損傷や血管・神経損傷などの合併症に繋がりかねません。

これらは即致命的になってしまうので、慎重に対応しましょう。